市村研の主な研究
市村研の主な研究
卒業研究について(学部学生向け)
膜: 細孔とその役割
ろ過膜は、逆浸透膜・ナノろ過膜・限外ろ過膜・精密ろ過膜のように、細孔の大きさを基準にして分類されています(分離膜と呼ばれるものには、この他にも、水素や二酸化炭素などを分離するガス分離膜、血液浄化に利用されている透析膜のように用途/利用法で分類されるものがあります)。限外ろ過膜や精密ろ過膜の細孔は、um(マイクロメートル、10-6m)からnm(ナノメートル、10-9m)の大きさです。数万倍から数十万倍の倍率で観察できる走査型電子顕微鏡(SEM)を利用すると、細孔の大きさや形、そのばらつき具合が膜の種類や素材によって異なることが分かります。逆に、細孔がそれより小さな逆浸透膜やナノろ過膜の観察は非常に困難です。
写真1:アルミニウムを陽極酸化して作ったアルミナ膜です(市村作製)。細孔径は約40nm。
写真2:細孔径が約50nmの シラス多孔質ガラス(SPG)膜です。この膜を利用して膜乳化を行うと、OW、WO、WOWエマルションなどが均一な大きさで作れます。
写真3:セルロース系の精密ろ過膜です。表面と裏面で細孔の大きさが違う非対称膜です。
膜ろ過法の原理は 「膜の細孔より大きな物質は膜を通さない」という単純なものです。では、細孔の大きさは全て同じでしょうか? 小さなものは必ず通るのでしょうか? 大きなものはどこへ行くのでしょうか?
細孔の大きさは公称孔径(分画分子量も大きさに相当するものですが、正確には性能を表す指標です)で表されますが、あくまでも「何らかの方法で評価した平均的な大きさ(性能)」にしか過ぎません。実際に実験で使うと「え?」と思うような結果が出ることもあります。得られる結果は、ろ過する液の性状、ろ過の方法(全ろ過法、クロスフローろ過法など)、ろ過の条件(圧力など)、膜の素材によっても変化します。もちろん、膜は使っていると汚れるため、性能は時々刻々変化します。膜の研究の難しさ、面白さがここにあります。
研究の目的
有機高分子やセラミックを加工して作るろ過膜は、水処理をはじめ様々な分野で利用されており、環境汚染や水不足などの社会問題の解決に不可欠なものとなっています。しかし、残念ながら万能ではありません。細孔が目詰まりして性能が低下し(ファウリングと呼ばれます)、薬品による洗浄や交換が必要となるからです。そこで、膜細孔に新たな機能を付与した機能性膜の開発を中心とした研究テーマに取り組んでいます。水処理だけでなく、食品分野、医療・医薬品分野への展開も模索中です。
主な研究テーマ
膜による水処理に関する研究
排水処理において膜分離活性汚泥法が注目されています。排水を活性汚泥で処理するだけでなく、さらに膜でろ過するというものです。この研究では、膜細孔の目詰まりに関する基礎研究だけでなく、厚木市周辺の水環境保全や処理水の再利用法についても考えています。
大学周辺の湧き水
宮ヶ瀬湖
海水の膜処理とバイオファウリングに関する研究
世界的な水問題によって逆浸透法による海水淡水化技術があらためて注目されています。この研究では、精密ろ過膜/限外ろ過膜を利用した前処理法の検討とともに、逆浸透膜の微生物汚染(バイオファウリング)について検討しています。
コンピュータシミュレーションによる分離膜の汚染 / 透過機構に関する研究
多孔質膜を利用する膜ろ過法では、 細孔の目詰まりが避けられません。排水、海水・・・ろ過の対象によって最適な膜、最適なろ過条件が変わってしまいます。ろ過対象と同時に使う膜やろ過条件が分かればどんなに楽か・・・膜ユーザーすべての望みです。必要な数値さえ入力すれば良いコンピュータシミュレーションは、その課題を解決する手段となり得ます。膜開発の立場からは、開発すべき膜が見えてきます。現状では複雑な系は扱えませんが、他大学の先生の協力を得ながら、数年後、数十年後を見据えて取り組んでいます。
膜による乳化 / 解乳化技術に関する研究
多孔質膜を乳化素子として利用すると、OW、WO、WOWとよばれる液滴、マイクロカプセル、無機微粒子などを均一な大きさで作ることが可能です(操作としてはろ過と同じです)。この乳化技術は、食品や医薬品の他、工業材料の開発にも用いられいます。一方、膜の表面物性や条件を変えて液滴を通すと(この場合もろ過です)、液滴が壊れる解乳化と呼ばれる現象が起こります。現在は解乳化による排水処理(壊す!)を検討していますが、将来的には作るテーマも考えています。
温度応答性膜を利用した膜ろ過技術の開発
温度応答性ポリマーは、水温を変化させると、伸びたり縮んだり(親水性になったり疎水性になったり)する性質を持っています。ろ過膜の表面をこのポリマーで薄く覆うと、細孔の大きさや膜の親疎水性を水温で変化させることができるようになります。これが温度応答性膜です。現在は、この機能の一部を利用して、汚れた膜を簡単に再生する技術について研究しています。(東京工業大学資源化学研究所の山口猛央研究室との共同研究です。)
バイオマテリアルを利用した汚染抑制膜の開発
リン脂質で構成される生体膜は、必要な物質を選択的に素早く透過させるだけでなく、汚れに強いことから、最も優れた分離膜と考えることができます。この研究では、ろ過膜の表面を人工的なリン脂質ポリマー(MPCポリマー:東京大学の石原一彦教授が開発)で覆うことで、生体膜のような汚れにくい膜の開発を目指しています。水処理への応用の他、これまで不可能とされてきたアプリケーションへの適用も可能になると考えています。
膜を利用したナノマテリアルの分離 / 材料の表面物性及び細孔構造に関する研究
膜の細孔より大きな物質は膜を透過することができない、これが膜分離(ろ過)の原理です。「大きいものと小さいものを膜で分離する」、原理的には可能ですが、細孔の目詰まりが生じるため、実はかなり難しい技術です。現在、ナノテクノロジー/ナノバイオテクノロジーが注目され、さまざまなナノマテリアルが開発されています。それらの機能の発現には、純度の高さやサイズの均一性が求められることが多く、膜分離法は分離精製法の一つとして期待されています。新しい分離材料や分離技術を開発するため、表面の特性や細孔構造の評価などの基礎研究もあわせて進めています。
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